アルコール量を減らしたいが、微アルコール飲料やノンアル飲料では満足できない。そんな酒好きすらをも納得させる、おいしい微アルコール飲料が続々と開発されているのをご存知だろうか?それらを活用することで、我慢せずに適正飲酒ができるのだ。※本稿は、葉石かおり著、浅部伸一監修『なぜ酔っ払うと酒がうまいのか』(日経BP)の一部を抜粋・編集したものです。
あえて「飲みづらい」新グラス
開発したビールメーカーの思い
ヤッホーブルーイング(編集部注/軽井沢に本社を置くビールメーカー)のビールが飲みづらい「ゆっくりビアグラス」は、メディアでも盛んに取り上げられた。それは、「ヘタをすると製品であるビールの売り上げが落ちるような企画だからかもしれません」と同社の代表取締役社長の井手直行氏。確かに、皆が皆、このグラスを使ったら、ビールの消費が減ってしまいそうである(編集部注/井手氏によると一般的なロンググラスと比較すると、ビールを飲み切るまでの時間が3倍かかる)。
ビールを作る会社として、社内で懸念の声はなかったのだろうか。
「仮に一時的に売り上げが落ちたとしても、誰もやっていないこと、飲み手が喜ぶことを優先するのが当社のスタイルなので、迷いはありませんでした。当社の理念は『ビールに味を!人生に幸せを!』。ビールを飲んで幸せになってもらうのに、量は関係ありません。このグラスで笑いながら適正飲酒を心がけ、健康を保ちながらビールを飲み、人生を豊かにしてほしいですね」(井手氏)
適正飲酒と言えば、同社ではアルコール度数0.7%の微アルコールのクラフトビール「正気のサタン」も販売している。時代の流れも伴って、売り上げは右肩上がりだという。
「じわじわと正気のサタンの人気が上がっているのを肌で感じます。この製品を出すきっかけは、僕がおいしいと思える微アルコールビールがなかったから。各国の微アルコールビールを取り寄せ、テイスティングしたり、成分分析をしたりして、試行錯誤しながら開発し、企画から約2年で製品化しました。名前の由来は、微アルコールだからある程度飲んでも正気(しらふ)でいられるということ。そしてサタンは病みつきになるという意味を含んでいて、かつ『正気の沙汰』の語呂合わせでもあります」(井手氏)
微アルコールビールは、わずかにアルコールが入っていることで、ノンアルコールビールより飲み応えがあるし、(個人差はあるが)ほろ酔いにもなれる。筆者も、翌日に早朝から仕事があるときは、これを選んで飲んでいる。
ワイン、日本酒、カクテル…
世界的に広がる“微アル”
微アルコールやノンアルコールの飲料のニーズが年々高くなっているのは世界的な現象だ。世界の飲料市場のデータを提供するIWSRによると、2022年にノンアルコールまたは低アルコール飲料の販売量は7%以上増加し、市場規模は110億ドルを突破したという(2018年は80億ドル)。
2024年の8月には、ヤッホーブルーイングを含む5社共同による微アルコールに特化したビアガーデン「微アルでここちよい微アガーデン」が開催された。人気の「常陸野ネストノン・エール」(木内酒造)、「CIRAFFITI Session IPA」(トリクミ)などが会場に並び、全国から多くのファンが集まったという。
コロナ禍の影響もあり、日本でも微アルコール、ノンアルコールの人気が高まり、次々と新商品が発売されている。ビールをはじめ、ワインや日本酒、カクテルまでノンアルコール、微アルコールの商品が販売されるようになった。飲食店でもノンアルコールのカクテルである「モクテル」がメニューに並ぶようになり、酒に弱い人から支持を得ているという。
「私たちは、適正飲酒を『ウェルビーイング』の文脈で考えています。ウェルビーイングとは、身体的、精神的、社会的に良好な状態を指します。クラフトビールメーカーとして、微アルコールやゆっくりビアグラスによる身体的な健康を提案するほか、当社主催の醸造所見学ツアーやファンイベントなどで、精神的・社会的な健康も提案したい。人とのつながりが希薄な今、イベントに参加することで初対面の方々が友達になったり、意気投合した人と2次会に行ったり、中には結婚したりするカップルもいます。クラフトビールを通じて、人とのつながりを生み出し、社会とのつながりに貢献したいですね」(井手氏)
ただ「酒量を減らそう」とアピールしても、酒好きには伝わりづらい。井手氏の話を聞くと、飲み手の健康についてよく考えていることが伝わってくる。
もう少し飲みたい…
そんな時こそ“ノンアルコール”
酒を飲めば、つい、それに合うつまみ、それも脂質・糖質過多のものが食べたくなる。食べればまた、酒が飲みたくなる……これがエンドレスになるのが酒飲みの性だ。
適正飲酒とはすなわち、そのような悪循環を断ち切るために、飲み過ぎを防ぐこと。
そのためにはやはり、飲酒量をコントロールしなければならない。だが、できることなら、それでもやはり「酒を飲んでいる」という満足感は得たいと切に願っている。
自らを酒好きと言う肝臓専門医の浅部伸一氏は、このようなご時世にあって、どのように酒と付き合っているのだろうか。ぜひ聞いてみたい。
「最近は、ノンアルコール飲料を上手に使っています。お酒を飲んでいて、ああ楽しいな、もう少し飲みたいな、という段階になったら、ノンアルコールや微アルコール飲料に切り替えます。そうすることで、トータルのアルコール摂取量を減らせますからね。また、何も食べずに飲むのではなく、食事と一緒にゆっくり飲むようにしています」(浅部氏)
途中でノンアルコール飲料に切り替えたり、またはノンアルコール飲料を最初に飲んだりすれば、確かに酒量は減る。かつてノンアルコール飲料というと、「おいしくないけど、仕方なく飲む代替品」というイメージだったが、昨今のノンアルコール飲料はクオリティが高い。
米ニューヨークで流行る
ノンアルと並ぶドリンクとは?
例えば、実際にビールを醸造してからアルコールを取り除くという製法で作った『アサヒゼロ』や、ビールと同じ原材料で発酵させながらアルコールを産出しない製法で作ったノンアルコールのクラフトビール『BRULO(ブルーロ)』などは、本物と遜色ない味わいだ。
ノンアルコール飲料の市場は増えており、15年前に比べ約6倍にも拡大した。コンビニやスーパーの酒売り場も、ノンアルコール飲料の棚が徐々に増えつつある。著名なレストランでもノンアルコール飲料と料理のペアリングコースができたり、バーでもノンアルコールの「モクテル」の種類が増えたりしている。
また、ニューヨークではノンアルコール飲料と並んで、新しい「機能性ドリンク」が、意識の高い人々を中心に支持されているという。機能性ドリンクとは、腸に働きかけるプロバイオティクスが配合されていたり、アルコールが入ってなくてもほろ酔いになれるよう、大麻の成分が入っているものもあるそうだ。
大手メーカーでは、ノンアルコールや微アルコールの商品を拡充するだけでなく、適正飲酒を訴える取り組みを展開するようになった。アサヒビールの「スマドリ」や、サントリーの「DRINK SMART」、キリンホールディングスの「スロードリンク」などがそれで、専用のウェブサイトを用意してそれぞれメッセージを伝えている。
先日は、餃子チェーンの「餃子の王将」で、スマドリが推奨するノンアルコール専用のメニューを見て、以前よりはるかにノンアルコール飲料が浸透していることを実感した。
楽しく飲酒を続けながら
健康と両立させていく
「確かに世の中の流れとして、アルコール消費量は減っていくと思います。以前に比べて、若い人の肝臓の疾患が減っているのも時代を物語っていますよね。ただ酒好きの1人としては、やはりお酒を楽しみたい。私も、飲むのをやめたいとは思いません。それには健康を維持することが大切です。年に一度は、健康診断を受け、肝臓に問題があると言われたら、クリニックを受診するようにしましょう」(浅部氏)
さまざまな報道のおかげで、酒好きなら誰もが「適量に抑えることが健康維持に必須」ということを理解している。だが、本音を言えば「ミミタコ状態」なのだ。我々酒好きは、それを踏まえた上で、愛する酒を飲んでいきたい。いや、絶対に飲むし、やめない。
そのためにも、自分なりの対策を考えた上で、飲酒寿命を延ばすよう心がけたい。
2025-06-30T21:01:26Z