ひとり暮らしをしているなかでよぎる「将来や健康の不安」。そんなときは、考え込むよりもまずは暮らしのリズムを整えて、自分らしく過ごすのが大切かもしれません。今回は、現在60代の著述家、中道あんさんに、1年間のひとり暮らしをとおして気づいた、「心地よく過ごすひとり暮らしの基本」について話を聞きました。
ひとり暮らしを始めて、まもなく1年が経とうとしています。ふと気づいたら、引っ越してから元の自宅に一度も帰っていません。私が引っ越したあとの家は、長男がひとりで暮らしていました。
長年住み慣れた家でしたが、一度離れてしまえば、そこはもう息子の暮らす場所。不思議なほど、気持ちはあっさりときり替わっていきました。長男は奥さんを迎え入れ、文字どおり、私には「帰る家」がなくなりました。ひとりぼっちになった今は、愛犬がいちばんの親友です。
それでも私は、今、自分の人生をちゃんと生きている、という実感があります。
ひとり暮らしのいちばんの魅力は、やはり自由です。たとえ息子であっても、一緒に暮らしていれば、どこかで相手に気をつかうもの。ひとりで暮らすということは、生活のすべてを自分で決められるということです。
ただ、ひとりになってみて気づいたのは、自由とは、好き勝手に過ごすことではないということでした。だれにも注意されないからこそ、自分の行動が、そのまま自分に返ってくる。それを実感するようになりました。
食事をおろそかにしても、部屋が散らかっていても、カップラーメンですませても、だれにも迷惑はかかりません。でも、それが積み重なると、体調や気分に、じわじわと影響してくる。
50代をすぎてからは、「健康になる」よりも「不健康にならない」ことの方が大切だと感じています。
家族のためならできていたことを、今度は自分のためにやってあげる。自分が心地よく過ごせる暮らしを、自分の手で整えていく。それが、ひとり暮らしの基本なのかもしれません。
わが家にはテレビは置いていません。家族から、テレビを買うことをすすめられたこともありました。ひとりだと退屈するだろうから、ネットフリックスやYouTubeを大画面で見たらいい、と。
けれど私は、仕事に夢中になる時間があり、正直なところ、退屈している暇はあまりありませんでした。むしろ、気づかないうちに仕事に根をつめすぎていたことに、ひとりになってから気づいたのです。
そこで、生活のリズムを意識するようになりました。次の4つがひとり暮らしを始めて、新たに取り入れた習慣です。
1.休日をきちんとつくること。
2.睡眠の質を上げるために、お風呂上がりのビールを控え、夜10時には寝る準備を始めること。
3.朝は犬の散歩をして、軽く体を動かす。
4.緑茶を丁寧にいれて、和食の朝ごはんをゆっくり噛(か)んで食べる。
仕事のために暮らしを犠牲にするのではなく、仕事と暮らしのバランスをとるでもなく、暮らしの一部として仕事をする。
そんな感覚に、少しずつ変わっていきました。
私の場合、時間を忘れて没頭できるものが仕事ですが、仕事以外にも、心が動く時間を意識的につくるようになりました。
本を読む時間が増えたり、映画や美術にたくさん触れたり。そうした時間は、巡り巡って、また仕事にもつながっていきます。
そんな流れのなかで、もうひとつ、始めたことがあります。
それが、1坪のミニ畑です。仕事ばかりの毎日ではなく、水をやったり、草を抜いたり、手をかけないと育たないものをもちたくなりました。以前から興味があったのですが、畑の場所が家から遠いところばかりだったので、できなかったんです。
なんとなく畑をやりたいなあと思って検索したら、歩いて行ける距離に貸し農園があることがわかったので、すぐに契約して思いきって始めてしまいました。成果を急がず、ただ今日できる世話をする。小さな挑戦です。
ひとり暮らしに不安はないのか、と聞かれることがあります。正直に言えば、不安がまったくないわけではありません。
ただ、「なんとなく不安」という感情は、振り返ると、取りこし苦労だったことが多いように思います。もう60代なので、何十年も先のことを考えて、今の時間をムダに過ごすよりも、今できることをやっていくことの方が大事です。
理由のわからない不安を感じたときは、考え込むよりも、散歩に出かけたり、体を動かしたりして、頭ではなく体を動かすようにしています。
もちろん、「家賃が上がったらどうしよう」「病気になったらどうしよう」といった、具体的な心配事が浮かぶこともあります。
そんなときは、「もしそうなったら、こうする」と決めてしまう。ひとり暮らしは、そうした小さな決断の積み重ねなのだと思います。
ひとりで暮らすということは、自由であると同時に、自分の人生を自分で引き受けること。派手ではないけれど、今の私は、この静かな暮らしを、気に入っています。
2025-12-23T11:14:11Z