給料は上がっているはずなのに、なぜ生活は楽にならないのか――。最新調査からみえてきたのは、物価の上昇に賃上げが追いつかず、私たちが使えるお金の実質的な価値は目減りし続けている現状でした。
都内の中堅物流会社に勤務する佐藤健二さん(45歳・仮名)は、この冬、給与明細の入った封筒を開けて言葉を失いました。
佐藤さんの月収は手取りで約32万円。妻(42歳・仮名)と中学生、小学生の2人の子どもを養う4人家族です。決して低い年収ではありませんが、佐藤さんは「生活は自転車操業そのもの」と語ります。
「数年前までは、週末に家族でファミレスに行ったり、夏休みに国内旅行へ行ったりする余裕がありました。でも今は難しいですね。毎月の住宅ローン10万円に加え、子ども2人の塾代などの教育費が重くのしかかります。さらにここ最近の物価高で食費や光熱費が跳ね上がり、給料が入っても右から左へ消えていくんです」
佐藤さんが特に頭を抱えているのが、日用品や食料品の値上げです。妻も近所のスーパーでパートをして月8万円ほど家計を助けていますが、その収入は「値上がり分」の補填に消えてしまうといいます。
「妻は『特売の卵すら高い』と嘆いています。以前は1パック200円以下が当たり前だったのに、今はもう……。私の小遣いは月3万円から2万円に減らしました。昼飯も家から持参です」
わずかながら会社でのベースアップはありました。しかし、数千円程度の昇給では、生活コストの上昇分を賄うことなど到底できません。そこへ来て、頼みの綱だった「冬のボーナス」に異変が起きたのです。
「会社の業績は堅調だと聞いていたので期待していたんです。でも、支給額は想定より2割ほど少なかった。車の車検代や、壊れかけた冷蔵庫の買い替え費用をボーナスで賄う予定だったので、計画がすべて狂いました。貯金を切り崩すしかありません……」
佐藤さんは「自分たちは中流家庭だと思っていたが、気づけば貧困層に片足を突っ込んでいる気分だ」と自嘲気味に笑います。
「ニュースで『賃上げ』とか『好循環』とか言われても、どこの国の話だろうと思いますよ。真面目に働いているのに、なぜこんなに苦しいのか。この先、生活が良くなるイメージがまったく持てません」
そうした個人の実感を、統計データは残酷なまでに裏付けています。
厚生労働省が2026年1月8日に公表した2025年11月分の『毎月勤労統計調査(速報)』によると、物価変動を加味した「実質賃金」は前年同月比で2.8%減少しました。これで11ヵ月連続のマイナスです。
実は、給与の額面にあたる「名目賃金」自体は増えています。現金給与総額は31万0,202円で、前年同月比0.5%増と47ヵ月連続のプラスを維持しています。しかし、それをはるかに上回る勢いで物価が上がっているのです。実質賃金の算出指標となる消費者物価指数は3.3%も上昇しており、わずかな賃上げ効果を完全に打ち消してしまっています。
つまり、「給料袋の中身は少し増えたが、お店で買える物の量はそれ以上に減っている」というのが、今の日本の偽らざる姿です。
さらに深刻なのが、佐藤さんが直面した「ボーナスの減少」です。同調査における「特別に支払われた給与」は、前年同月比で17.0%減と大幅に落ち込みました。これは11月の速報値であり、支給時期のズレなどが影響している可能性もありますが、企業が一時金の支払いに慎重になっている、あるいは抑制傾向にある兆候とも読み取れます。
基本給のベースアップが物価上昇に追いつかず、家計の赤字補填に使われてきたボーナスまでもが減少傾向にあるとすれば、多くの中間層にとって家計のやりくりが限界を迎えるのは時間の問題です。
「物価の上がるスピードに、給料が追いついていない」
「働いても働いても、暮らしが楽にならない」
このじれったい追いかけっこが終わらない限り、いくら数字が改善しても、私たちの生活に春は来ないでしょう。
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