注目の「多拠点生活」、始めるにはどうすればいい? 具体的な方法を実践者が紹介

コロナ禍以降、リモートワークの普及により、ワーケーションや多拠点生活に対する関心が高まっています。社会活動家の石山アンジュさんは、そんな多拠点生活を実践する一人。東京都・渋谷のシェアハウスと、大分県・豊後大野市の田舎の古民家に住まいを構えながら、1カ月のうち10日を東京、10日を大分、その他の時間を全国色々な地域へ仕事や旅を目的に訪れる生活を送っています。

政府の多拠点生活のあり方を議論する国土交通省「関係人口・ライフスタイルに関する懇談会」で有識者委員を務め、シェアリングエコノミー(インターネットを介して個人や企業が保有しているモノ・コト等を共有する新たなビジネスモデル)を通じた新しいライフスタイルの普及を行っている石山さん。多拠点生活を実践する際にどんな方法やサービスがあるのか、具体的に教えてくれました。

※本記事は石山さんの新刊『多拠点ライフ』より、著者の許可のもと、一部抜粋・再構成したものです。

石山 アンジュ プロフィール


社会活動家、コメンテーター(「羽鳥慎一モーニングショー」「真相報道 バンキシャ!」他)。シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを普及するほか、政府と民間の間に立ちながら社会課題の解決に取り組む。政府の多拠点生活のあり方を議論する国土交通省「関係人口・ライフスタイルに関する懇談会」や地方創生の中長期戦略を議論する内閣官房「地方創生有識者懇談会」の有識者委員。デジタル庁シェアリングエコノミー伝道師。株式会社USEN-NEXT HOLDINGS社外取締役(就任時、東証一部 最年少女性)。著書に『シェアライフ 新しい社会の新しい生き方』『多拠点ライフ』(いずれもクロスメディア・パブリッシング)。

さまざまな多拠点ライフの形

都会に軸足を置きながら田舎でスローライフをするような、都会と田舎を行き来するスタイル、平日は都市部で働き、週末は趣味の登山やキャンプ、トライアスロンやウィンタースポーツなどを目的に、山や海の近くに通うスタイル、全国、世界中のユニークなホテルを泊まり歩くようなスタイル、定住する家を持たずに移動しながら生活するアドレスホッピング、仕事の出張と旅行を合わせたワーケーションなど、仕事を中心に、または拠点を中心に、自分の好みに合わせて様々な多拠点ライフの類型があります。多拠点ライフは、自分の好きな時に好きな場所で過ごせる自由な暮らしのあり方なのです。

私が委員を務めていた、多拠点生活者の人口(関係人口)の定量化・類型化をはかる委員会で取りまとめた実態把握調査では、2021年公表時点で程度の差はあるものの、国内で1800万人超が特定の地域に継続的に訪問していることが判明しました。

多拠点ライフの形は、大きく分けると次の4つが挙げられます。

1.自分で複数の家を構える~二拠点生活型~

二拠点生活とは、ふたつの地域に家を持ちながら暮らすライフスタイルのことで、デュアルライフとも呼ばれます。例えば平日は東京で生活し、土日は二拠点目に移動してオフを過ごすなどの暮らし方を指します。

複数の家の持ち方としては、賃貸物件でマンションや古民家などの一軒家を借りる方法、シェアハウスに入居する方法、土地や家を買う方法が挙げられます。地方は都市部と比べれば相場が安いため、都市部に住む人であれば、賃貸や土地を買う形でも、今の家賃に月数万円程度をプラスするだけで住めるところも多くあります。私の生活は東京のシェアハウスと大分の賃貸の古民家物件のふたつを合わせて10万円台の家賃を払っています。

2.数百以上の拠点に住み放題~多拠点サブスク型~

近年、多拠点ライフが誰でも気軽にできるようになった草分け的存在が、多拠点サブスクサービスの登場です。毎月定額で国内外1000以上の宿泊施設(ホテル・旅館・ゲストハウス・ホステルなど)を利用できる「HafH(ハフ)」というサービスや、全国250カ所以上のシェアハウスや古民家に住み放題の「ADDress(アドレス)」、自然の中にもうひとつのセカンドホームを持つことができる月額制サブスクリプションサービスの「SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム)」などが挙げられます。

私も各地を訪問する際は、HafHやADDressを使ってユニークな拠点に滞在しています。会員になっているとどこでも住み放題という楽しさと安心感があります。またサブスクリプション型ですが、その月に消化できなくてもチケットやポイントを繰り越して使うことができるので損することなく使えるのもメリットです。

3.車で移動しながら暮らす~バンライフ型~

バンライフ(VANLIFE)とは、キャンピングカーやバンを利用して移動しながら生活するライフスタイルのことです。車で寝泊まりするだけでなく、家事や仕事など車を中心に移動しながら生活をします。従来の旅行と比べて宿泊・時間・金銭の自由度が高いことが特徴です。

自分でバンを改造したりキャンピングカーを所有したりしている人もいますが、キャンピングカーのレンタル・シェアリングができる「Carstay」というサービスを使うこともできます。また、車中泊スポットを予約できる「RVパークsmart」や、キャンプ用品を持っていなくても誰かの自宅や倉庫に眠っているものを借りることができる「ソトリスト」というシェアリングサービスなど、バンライフを豊かにする色々なツールが出てきています。

4.旅行と住まいの垣根をなくす~スポット型~

普段旅行で予約するようなホテルに1カ月住むことができる長期滞在プランが、コロナ禍で急増しました。アパホテルのようなビジネスホテルから、帝国ホテルのような高級ホテルまで、生活に必要なアメニティやサービスを完備した長期滞在プランが続々と登場しています。

また民泊プラットフォーム「Airbnb」でも、プール付きやサウナ付きのユニークなおうちや拠点にバケーションレンタルという形で長期間滞在することができます。ウィンタースポーツができる時期だけ1カ月滞在、というような季節移住的な長期滞在をしている人も少なくありません。

仕事と旅行の境界線も曖昧に

多拠点ライフはハードルが高い、という方は、「ワーケーション」から始めてみてもよいかもしれません。ワーケーションとは、「ワーク/仕事」と「バケーション/休暇」を組み合わせた造語。自宅や職場とは違う場所で仕事をしながら、バケーションも楽しむ、という働き方です。従来の日本の旅行のスタイルは、ゴールデンウィーク休暇など特定の時期に一斉に休暇を取得し、1泊2日の短い日数で宿泊をするといった特徴があり、旅行需要が一定の期間と場所に集中してしまうことが課題とされてきました。ワーケーションは旅行の時期を分散し、長い滞在の需要を新たに創出するという期待から、政府も観光政策のひとつとして推進しています。

福岡県古賀市にある温泉宿を改装した温泉付きのコワーキングスペース「快生館」では、企業合宿やワーケーションを目的に県外から多くの人が訪れていたり、佐賀県嬉野市にある老舗旅館「和多屋別荘」では、旅館の中に自社オフィスを構えられるプランやリモートワークで長期滞在ができる専用プランを設けたりするなど、温泉ワーケーションで注目を集めています。

これまで休日しかできなかったバケーションが、もっと身近な、いつでも取れる選択肢になっていく。今後、旅行と暮らしの境界線がより曖昧になっていくでしょう。

働き方が「コロナ前」に戻ることはない

現在、リモートワークは国レベルで推進されています。コロナを機に世界中で広がったリモートワークは、世界を旅しながら働く「デジタルノマド」を生み出し、スペイン、エストニアなど各国でリモートワークしながら長期滞在を可能にする許可証である「デジタルノマドビザ」を発行する国もできました。

日本に長期滞在しているイギリス人の知人は、「イギリス国内の物価が高いので、しばらくはイギリスの仕事を日本にいながらリモートワークで行うことでお得に住んでいるんだ」と言っていました。デジタルノマドの世界人口は3500万人、市場規模は約110兆円と推計されており、日本政府でもデジタルノマドビザを発給するなどの呼び込み施策の検討を開始しています。

企業が働く環境の柔軟化を推し進める背景には、社員の充実度を上げるという理由だけでなく、社会変化が激しく先が見通しづらい市場環境の中で、オフィスを縮小し固定費を下げることで柔軟な経営に変えていくことや、副業をする社員が社外で多様なスキルや人脈を育てることによって、自社の人材力を強化するといった狙いがあります。

このように、コロナを契機に働き方を取り巻く環境が大きく変わりましたが、コロナが収束したアフターコロナの社会でも、企業や国が働き方の多様化を推進することのメリットを見出している今、働き方がコロナ以前に戻ることはないでしょう。

むしろ加速していく流れの中で大切なのは、選択肢が多様化したからこそ、自分がどのような働き方を求め、どういう環境で働くことが仕事のやりがいもパフォーマンスも上げられるのか、自分に合った最高の働き方を明確にしていくことです。とはいえ、今の仕事や働き方をすぐに変えるのは勇気のいること。いきなり全部を変えなくても、まずは週末だけ行きたかった場所に行ってみるのも良いと思います。その地域にリモートワークができるコワーキングスペースがあるか探してみたり、Wi‒Fi環境が整備されているか確認したりしてみましょう。

2023-11-16T21:07:48Z dg43tfdfdgfd