87歳・田村セツコ「おばあさんになった今だからこそ、本当に私らしいおしゃれをしたい」<誰かにとっての無難>ではなく<自分の理想>のため、これからも果敢にチャレンジ

人生は計画どおりにはいかないことも多いものですが、87歳のイラストレーター・田村セツコさんは、「どんなときでも、ピリピリした緊張感を持たずに生きていけたら」と話します。今回は、田村さんの著書『田村セツコの私らしく生きるコツ 楽しくないのは自分のセイ』から一部を抜粋し、毎日がきっと楽しくなる、自分らしく生きる秘訣を紹介します。

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【写真】田村セツコさん「今日のお洋服はこんな感じ。やっぱりエプロンは欠かせません」

おばあさんの妖精

今や“カワイイ文化”の発信地として世界の注目を浴びる原宿。そんな原宿界隈に、私はもう50年以上暮らしています。

ある日の私のコーディネート。取材を受ける日だったので、はりきっておしゃれしました。イメージは“おばあさんの妖精”ってところかしら。白のパフスリーブのブラウスに、黒のベスト、白黒チェックのスカートにはシフォンのエプロンをつけて。大きな水玉模様のリボンのついた帽子には、三つ編みにしたエクステを安全ピンで留めてみました。

妖精効果か、通りがかりの海外の観光客に「エクスキューズ・ミー?」と声をかけられて一緒に記念写真を撮りました。

ストリートスナップっていうのかしら、ロリータファッションの雑誌に載ったこともあります。

原宿のいいところは……

原宿のいいところは、どんな格好をしていても平気で歩けるところ。

あるとき、いただいたギザギザの布だらけのコム・デ・ギャルソンのスカートをはいていたら、若い男の子がじっと見てきます。「ちょっと派手かしら?」って話しかけたら、「いや、イケてますよ」とにっこりしてくれました。

またあるとき、右足は黄色、左足は緑色みたいにソックスの左右の色を変えてはいていたら、若い子が「わあ、カッコいい!」って言ってくれたり。

若い子のおしゃれをそのまま真似はしないけれど、一生懸命工夫をして自分なりの着こなしをしようとがんばっている子を見ると、つい応援したくなります。

「いい気になりすぎない」ということが大事

ファッションって、自分そのものを表現するもの。誰かが考えたトレンドに合わせたり、無難なものばかりを着ていては、やっぱりつまらない。どこかに自分の“色”が出ていなきゃ。

自分を表現することは、初めはドキドキして、ちょっぴり怖いかもしれません。私だって経験あります、おばあさんがこんなファッションしているのだもの。「エッ」って怪訝な顔をされたり、視線がどこかよそよそしかったり。そんな冷たいあしらいをされることも時にはあります。

あるとき、ほうれい線くっきりの顔にちょうちん袖のブラウスを着ていた私を見て、「???」という顔をしてじろじろ見て、ぷいっと横を向いた人もいましたっけ。疲れていた日だったこともあって、そのときはやっぱり私も傷つきました。

でも、この冷ややかな目にむしろ学ぼうと思って、家に帰ってから、シンプルなシャツにコム・デ・ギャルソンのような個性的なパンツを合わせたスタイル画を描いて、玄関に貼りました。「あの冷たい視線に学んで、もっと研究しよう!」と思って。

いつも、「人の目は気にせず、おしゃれは自由に」と思って生きているけれど、他人の批評の目というのはやっぱり無視できません。おしゃれも、「いい気になりすぎない」ということが大事なのね。

私らしく自由に

原宿を歩いていると、私よりもっとすごいヘアスタイルをしている若者とか、全身ロリータファッションで決めた女の子たちもいっぱいいますが、きっと彼らも世間の激しい批評の目と闘いながら暮らしているんだろうな、と思うと、なんだか年の離れた“同志”のような気がして勇気づけられます。

それに、やっぱり自分が満たされていて幸福な人は、意地悪な目で人をじろじろ見たりはしないと思うのね。だから、そういう視線にぶつかってしまったときには、「そんな目で人を見るなんて、よほどあなたは不幸でおつらいんでしょうね」なんて心の中でつぶやいたりしています。

私はやっぱり、おばあさんになった今だからこそ、本当に私らしいおしゃれをしたい、楽しみたいって思います。誰かにとっての無難な服ではなく、本当に私らしい服、心地よい服。自分の中のイカした理想のおばあさん像を体現すべく、これからも果敢にいろいろなおしゃれにチャレンジするつもりです。

実は、ボーイッシュな、そう、ギャルソン気分な服が今、一番着たいんです。白いシャツにネクタイ。たっぷりサイズの上着で。

※本稿は、『田村セツコの私らしく生きるコツ 楽しくないのは自分のセイ』(WAVE出版)の一部を再編集したものです。

2025-07-02T03:36:18Z